FC2ブログ

「薔薇十字団」


にほんブログ村
薔薇十字団 




本書の著者、ロラン・エデゴフェルは、「十字架に薔薇を絡ませたのは

誰か?」という、かつてゲーテが発した疑問を引用しながら、この疑問は、

今日でもなお有効であると述べています。

 

なぜなら、薔薇十字団の謎は相変わらず謎のままであり、研究者だけで

なく、幸福と叡智を探求するすべての人々を惑わし続けているからだと

しています。

 

さて、著者は、本書において、薔薇十字団の謎を三つの謎として探究して

います。一つは、ゲーテが疑問を呈した、薔薇十字団の起源の謎について

であり、もう一つの謎は、薔薇十字団が追求する目的とは何であったのか

というものであり、第三の大きな謎は、薔薇十字団は本当に実在したのか、

のちに薔薇十字団を名乗ったいくつものグループや結社は、その共同体を

本当に代表していたのかという疑問であるとしています。

 

薔薇十字団の三つの文書

 

歴史的存在として確認できる最初の薔薇十字団は、17世紀の初めに現れた

ということです。しかし、それは具体的な組織としてではなく、三つの文書

というかたちで現れました。

 

最初に出版された薔薇十字文書は、「ファーマ・フラテルニタテス(薔薇

十字兄弟団の声明)」(1614年)です。

 

この文書は、薔薇十字兄弟団と名乗る者(著者は、薔薇十字団の創設から

百十数年後の第三世代にあたるという)が、「ヨーロッパの首長、諸身分

階層、学者たちに宛てた」文書で、時代の短い分析に続き、薔薇十字団の

創立者ローゼンクロイツの伝記、創立期の兄弟団の様子と信条、ローゼン

クロイツの墓について述べ、「普遍的改革」の志を同じくする人々に対して、

文書などによって応答してほしいと呼びかけたものです。

 

ローゼンクロイツはドイツの没落貴族出身で、アラビア、エジプトなどへ

修行の旅に出てカバラーやヘルメス学などの東方の神秘学を学んだのち、

ドイツにもどり、真理を探究するために修道会に似た協会を創設したと

いいます。

 

薔薇十字団の信条は、(1)無料で病人を治すことを職業とすること(2)

特別な姿をするのではなくそれぞれの国の服装を身につけること(3)

毎年集まること(4)自分の後継者を選ぶこと(5)印章、合言葉は

「薔薇十字」とすること(6)兄弟団の存在を百年間秘密にすること、

としています。

 

「ファーマ」における薔薇十字の思想は、哲学と神学を同列に扱う楽観的

なものであり、その哲学は、古代の様々な思想に共通の叡智をみる「古代

神学」の立場、そして、様々な宗教や哲学のあいだに究極的には調和を

見出そうとする「哲学の平和」の考え方を引き継いでいるということです。

 

また、ユダヤ神秘主義「カバラー」や医師であり錬金術師であったとされ

るパラケルスス(パラケルススは薔薇十字団のメンバーではなかったと

いう)の影響も大きいということですが、「ファーマ」は、同時代に

流行した単なる黄金製造としての錬金術や魔術、そして巷にあふれる

錬金術書にははっきりと批判的な態度をとっているようです。

 

「ファーマ」における薔薇十字団は、真理を探究するための、少人数の知的

エリート集団である。よって、その哲学はふさわしくない人々には知られる

必要はない。しかし、知識は閉鎖的なものではあってはならず、探究者たちが

情報交換を行って学術を改良・進歩させていく必要があると訴えたという

ことです。

 

「ファーマ」に次いで出版されたのが「コンフェッシオ・フラテルニタティス

(薔薇十字団員の信条告白)」(1615年)です。本書は、「ファーマ」の

補足であると自称するもので、終末論的なトーンが強い点や反カトリックと

いう立場を鮮明に主張している点で「ファーマ」とは趣を異にしているよう

です。

 

「コンフェッシオ」は、キリストを奉じ、教皇に反対し、真の哲学に心を寄せ、

キリスト教的生活を営んでいる、神の光に照らされた人々を招いている薔薇

十字団に加わったならば、きっと自然が世界の至るところに散りばめておいた

富が分かち与えられるだろうと約束しているとのことです。

 

著者エデゴフェルは、「コンフェッシオ」が「ファーマ」と本質的に異な

っている点は、聖書の重要性を認めていることであると述べています。

そして、「コンフェッシオ」が「ファーマ」で表明された思想の解説だと

いうことになっているのに、「ファーマ」では楽観的な様相のもとに提示

された哲学がここでは欠陥だらけの終焉間近なものとして登場していると

しています。

 

また、天・地・人を究めた「哲学」を多くの人に知らせるべく「言葉の時代」

を宣言するが、自分たちの仲間になる者に対して沈黙を強制し、自分たちの

哲学を告白するが、すぐにそれは神の恩寵に恵まれた者でなくては到達でき

ないと付け加えるというパラドックスをはらんでいると言います。

 

とにかく、「コンフェッシオ」の精神は「ファーマ」のそれとは著しく異な

っているものだと言えるようです。

 

17世紀の薔薇十字団に関する第三の文書は、「クリスチャン・ローゼン

クロイツの化学の結婚」(1616年)という書です。錬金術の象徴を

ふんだんに用いた物語であり、全二作の作者は不明ですが、薔薇十字団の

創設者とされていたローゼンクロイツがこの物語の作者であるとされ、

一人称の語り手となっているというものです。

 

この物語は、ローゼンクロイツが、様々な試練に遭遇したのちに、選ばれて

結婚式に出席し、最後に「黄金の石の騎士」となる、その7日間の出来事を

描いた物語です。その結婚式は、錬金術の作業のように見えるが、結婚式

そのものよりも、結婚式に出席するにふさわしい者はいかなる者か、が中心

的なテーマになっていて、この中心的なテーマは、ローゼンクロイツの歩み

を語る物語の波乱万丈な筋書きによって追求されているということです。

 

ここで錬金術は、象徴的な機能を果していて、物語のなかに散りばめられた

夢、芝居、エピグラム、暗号、記号、音楽、小話などが象徴となって、「秘密

をほのめかしつつ隠し」「隠しつつ顕す」雰囲気をかもし出しているとの

ことです。

 

ところで、「ファーマ」に描かれているローゼンクロイツは、東方で秘教的

な知を学び、秘密結社の指導者になった賢者であり、その生涯は、師を尊敬

する弟子の視点から描かれていました。

 

これに対して、「化学の結婚」のローゼンクロイツは、みじめな、過ちを

犯す存在であり、絶えず迷い、挫折しめげてしまう。しかし、そのような

とき、ローゼンクロイツは、おのれの無価値を謙虚に認めて神にのみ依り、

頼むことを知っています。だからこそ、「神の恩寵」により特別な騎士団

のメンバーに選ばれます。

 

このように、「化学の結婚」はローゼンクロイツの歩みをたどることに

よっていかなる者が自然の神秘を知るにふさわしいかを描いています。

また、そこには、錬金術や秘密結社をめぐる騒動に対する批判や風刺が

あるということです。

 

なお、ローゼンクロイツの歩みが「化学の結婚」というテキストの縦糸

だとすると、その横糸をなしているのが、記号や場面や物語の構造に

おける象徴性、つまりアレゴリー性だとされます。

 

かくして、上記の薔薇十字文書の出現は、世の中に熱狂を巻き起こし、

これに刺激されて賛同、もしくは反対する文書が次から次へと現れ、

数年の間に2百以上の文書を数え、18世紀初頭までにはおよそ9百

にも達したということです。

 

ところが、のちに「化学の結婚」の作者は、実は、ヨハン・バレン

ティン・アンドレーエという人物であることが発覚するのです。

それも、晩年の自伝の中で、17歳の時に書いた、奇想天外な場面を

ちりばめた「遊び」であって、好奇心のむなしい労苦を描いたものだ

と述懐しているのです。

 

アンドレーエは、1586年に南西ドイツのヴェルテンベルク公国に

生まれた、ルター派の重要な一族に属す神学生で、その家紋は、ルター

にならって「薔薇と十字」であったということです。

 

では、「化学の結婚」の著者はアンドレーエだとして、他の二つの文書も

彼によるものだったのでしょうか?

 

アンドレーエが「ファーマ」と「コンフェッシオ」両文書の執筆に関与

 していたとする研究者、「ファーマ」のみに関わっていたとする研究者、

いずれにも関わっていないとする研究者など、意見が分かれている

ようです。

 

ただし、いずれにしても、両文書が若きアンドレーエの周辺で成立したこと

はほぼ間違いないとされています。

 

では、上記の文書が遊び、戯れのようなものであったとしても、これらの

文書が世に出た背景には何があったのでしょうか?

 

著者エデゴフェルによると、反抗的な学生であったアンドレーエは、30年

戦争に至るその当時の危機的な社会状況と、そこから派生する諸問題の重大さ

を認識し、ある主要な人物を批判したため、神学の勉強を中断しなければなら

なくなり、亡命を余儀なくされたこと、そして、そのことによる傷心と、トビ

アス・ヘスという、カバラーに傾倒し、法律家であり、医者であり、神学者で

ある変奇な人物との出会いが、第一の宣言、つまり「ファーマ」を誕生させた

のだろうとしています。

 

つまり、これらのことから全能の伝説的な人物、過ちを正し、新時代を告げる

人物を考えだしたのであり、その名前は彼の一家の紋章とルターの紋章から

思いついたに違いないと述べています。

 

しかし、事態は勝手に進展していき、大騒ぎになってしまいました。

 

それに対して、アンドレーエは、本来は、一生の間の様々な著作と行動に

より、ルター派の世界ではキリスト教徒の真の友愛団を推進しようと努めた

人であったようですから、いくつかの書の中で、薔薇十字団騒動への鎮静化を

始めます。

 

「ファーマ」に対して「化学の結婚」が、「コンフェシオ」を修正するものと

して「精神の剣の鞘」という書が著されたということです。

 

ただし、それは全面的に否定するわけではなく、肯定するにも否定するにも、

あまり明確でないデリケートな方法を用いたことになります。

 

 

著者は、これによって、アンドレーエは、学生時代の失敗を教訓に、直接、

下手な論争に首を突っ込むことを避け、秘密裏に、ローゼンクロイツを秘密

結社の指導者となった賢者という存在から、神の恩寵によってのみ救われる

迷える存在へと巧妙な修正を行おうとし、また、薔薇十字宣言から驚異という

偽りの魅力を排除し、宣言に含まれているメッセージの聖書的解釈を提唱し

ようとした、つまり、十字架の採用と薔薇十字の放棄へと導こうとしたと

述べています。

 

しかしながら、それに耳を傾ける者はなく、その後、薔薇十字神話は、

いやおうなしに、その作者の手を離れ、時間と空間を超えていたるところ

に出現することになって行ったようです。








 
 
 
 
 
 
 
スポンサーサイト



テーマ : 心、意識、魂、生命、人間の可能性
ジャンル : 心と身体