FC2ブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

即身成仏とは何か?-空海の宗教思想2-


にほんブログ村
空海の思想2



空海が密教の教義を語る理論書には二種類あります。

 

一つは、密教の思想的特徴を述べたものであり、『弁顕密二教論』『即身

成仏義』『声字実相義』『吽字義(うんじぎ)』などの著作がそれであると

されています。もう一つは、密教の立場からの全仏教の位置づけに関する

もので、密教を仏教のうちで最も完成したものと考え、他の仏教を密教の

下におき、それを発展段階の低いものとして位置づけるのですが、そう

いった見地から書かれたものに『十住心論』『秘蔵宝鑰(ひぞうほうやく)』

などがあるということです。

 

梅原猛氏は、『空海の思想について』のなかで、この二つの種類の著作の

うち、前者に属する著作について考察をしているのですが、今回は、その

中でも特に重要と思われる『即身成仏義』に的を絞り、紹介をしておきたい

と思います。

 

梅原猛氏は、『即身成仏義』を考察するにあたり、密教の持つ思想的特徴

について、次のように述べています。

 

仏教は、本来、現世に対する否定精神を、その理論の根幹に持っている。

釈迦の仏教は、四諦十二因縁をその理論的中心としているが、それは人間

を苦の相に見、その苦の原因を欲望に見て、その欲望からの脱却を説く

教えである。そして、現世を苦とする見方の根底には、人間を死の相、

無常の相において捉える思想がある。

 

だから、その後、苦と無常の世界を厭離し、いかなる欲望にも支配されない

清い世界を求め、世俗から離れた超越的な悟りの生活を送るといった伝統

仏教の世俗否定性に対する批判が起こったのであり、それが龍樹らによって

起こされた大乗仏教の思想であった。

 

大乗仏教には現世重視の精神があり、伝統仏教の持っていた現世否定の精神

を大幅に改めたけれども、それでも、やはり、否定精神をその内面に深く

宿していた。

 

よって、空海の密教は、それではまだ不十分であるとして、仏教がもって

いたこの現世に対する否定精神を否定するが、それこそが密教精神であり、

それこそが大乗仏教の究極的精神であるのだとしています。

 

つまり、密教に至って仏教そのものが、釈迦以来その内面に持っていた世界

に対する否定の意志を、ほぼ完全に放棄することになるということです。

 

もっとも、欲望がすべて肯定されるわけではない。人間を不幸に落とし入れ

る欲望は否定され、浄化されるが、浄化され、普遍化された欲望そのものは、

大欲として肯定されるのだとしています。

 

とにかく、世界というものはすばらしい。それは無限の宝を宿している。

無限の宝というものは、何よりも、お前自身の中にある。汝自身の中にある

世界の無限の宝を開拓せよ、このような世界肯定の思想が密教の思想には

あるのだと述べています。

 

さて、話を『即身成仏義』に戻しますと、それは真言密教の理論的性格を

即身成仏という点において、その意味を明らかにしようとするものですが、

梅原氏は、そこでは、空海が、はなはだ個性的な、独特の方法を用いて

いるといいます。

 

つまり、空海は、自ら即身成仏の偈(げ・ 詩句形式の言葉)をつくり、

それを解説することによって、この即身成仏の思想を明らかにしようと

しているというのです。

 

このような自分で詩をつくり、その詩を解釈することによって、密教思想を

明らかにするなどとは、まことに不遜なことと思われるが、空海は自らの詩

を経典の言葉のように権威あるものと考えているのであろうか、という問い

を発しています。

 

その上、この偈において、空海は、加持することによって、つまり、仏と

衆生が感応することによって、父母からもらった肉体のままに仏になること

ができると主張するのですが、これはまさに大胆きわまる説のように思える

と述べています。この大胆きわまりない教えは、当時の人に大きなショック

だったに違いないとしています。

 

ともかく、この偈は、前半で、即身の、後半で、成仏の解釈をしているが、

即身の解釈に力点が置かれていて、そこでは、身体性の原理がはっきり

肯定されているということです。

 

梅原氏は、この身体性の肯定、そして、物質の重視、コスモロギー(宇宙論)

の存在が密教の思想的特徴だと述べています。

 

ところで、前回でも紹介した竹内信夫氏は、即身成仏について、梅原氏とは

異なった見解を述べていますので、そのことについて少し触れておきたい

と思います。

 

竹内氏は、『即身成仏義』は「即身成仏」の意味を解き明かした文書であり、

中国唐代の漢文で書かれていて非常に難解な書であるが、「即身成仏」の四

文字の意味は、「身に即して仏となる」、つまり、今生きているこの自分の

体そのものにおいて覚醒すること、いのちを輝かせることであると述べて

います。

 

よって、成仏とは死ぬことではないし、死を賭した苦行が「即身成仏」だと

すれば、それは空海に「即身成仏」の思想の実践ではないとしています。

 

つまり、死ぬことはすべての生命体にとって避けることでできない宿命で

あり、そのことを踏まえて空海は「即身成仏」を説いていて、空海のいう

成仏とは自由の境地に立つことであり、死の妄想と恐怖から解放された

境地を目指すものだと述べています。

 

また、「即身成仏」という成句が漢訳経典に初めて現れるのは、空海の師で

あった恵果の、そのまた師であった不空金剛の書いた『菩提心論』という

著作においてであるが、空海は、なぜか、そこでは「竜猛菩薩」(龍樹)

を作者としているということです。(なお、他の経典にも出ているとされ

いますが、それらは偽経の疑いがあるとされています)

 

龍樹は、仏教を「空」の理論で再構築した、古代インドを代表する哲学者

であるから、ある種の権威付けといえるが、竹内氏は、それは、空海が

『菩提心論』の源流を、仏教史の奥深く、菩薩仏教(大乗仏教)の原点

まで遡らせることを表明しているのではないかと述べています。

 

つまり、『菩提心論』が、「竜猛菩薩」こと龍樹の精神を継承する不空金剛

の論書であること、そして、龍樹の源流まで遡る、菩薩仏教(大乗仏教)

の正統に属する論書であることを空海は主張しているのだとしています。

 

また、竹内氏は、『即身成仏義』は修行者のための修行指南書であり、その

修行を支える原理論を叙述するものである、菩薩仏教(大乗仏教)の趣旨

を説くものではなく、修行という実践的方法の理論的根拠を説くものだ

と述べています。

 

サマーディ(瞑想)は仏道修行の基本形、釈迦の修行の基本形であり、

それゆえにすべての仏教経典が説いているが、それらの経典にも、マン

トラ(真言)の修法は説かれていない、と『菩提心論』を引用しながら

空海はいいます。

 

静坐瞑想に終始するサマーディ(瞑想)型修行が静的であるのに対して、

マントラ修法の独自性は、それが激しい身体行動を伴っていることにある

というのです。

 

竹内氏は、若き日のマントラ修行(虚空蔵菩薩求聞持法)の体験と、入唐

留学で得た新知見、すなわち不空金剛のマントラ修法の理論を一句に煮詰め

たもの、それが空海の「即身成仏」理論であると述べています。

 

その「即身成仏」という四字は、唯一、不空金剛の『菩提心論』だけに、

ただ一度だけ書かれている。文字通り稀有のその一句を捉えて、空海は

「即身成仏」の理論を展開したのだとしています。

 

なお、梅原氏が大胆きわまりない教えといった「即身成仏」というものを

なぜ空海は前面に打ち出したのかということについて、竹内氏は、次の

ように述べています。

 

従来、多くの経典、論書では、どれもみな「三劫成仏」(劫とは、古代

インドにおける最長の時間体位)、つまり、無限とも思える、気が遠く

なるような時間を経なければ「成仏」できないとされてきたのに対し、

それは、世間から隔絶した僧院という閉鎖的空間における極端に肥大

した観念の産物であり、それを父母所生の身体、つまり、普通に暮らして

いる人間たちの世界に、常識と良識が働く生活の場に戻さなければなら

ない。そうでなければ、宗教は求められている「衆生救済」の務めを

果たすことができないとして、それらを逆転させるために「即身成仏」

の教義を打ち立てようとしたのだと。

 

かくして、竹内氏は、空海が『即身成仏義』で語ろうとしていることは、

空海自身が青年期以降、必死で求めてきた菩薩仏教(大乗仏教)の精髄を

「即身成仏」の四字に要約し、それを八句の「頌」(じゅ 偈と同じ詩句

形式の文章)で同時代の人々、特に自分の弟子たちに示すことであり、

多くの経典を読み続け、「虚空蔵求聞持法」の苦行を重ね、さらには長安

に留学して求め続けた「源」、つまり菩薩仏教(大乗仏教)の根源を、

そして空海自身の実存の根源を、生きとし生けるすべての生命体を支え

る「いのち」の根源を、「即身成仏」の四字に凝縮して空海は説き明か

そうとしているのだと主張しています。

 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 龍
  (水波一郎 著 アマゾン 発売)
 
 
 
 
 
 
スポンサーサイト

テーマ : 心、意識、魂、生命、人間の可能性
ジャンル : 心と身体

コメント

コメントの投稿

非公開コメント

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。