ギリシャ神話の誕生


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ギリシャ神話 




ギリシャ神話は、演劇や映画、そして小説などの素材やテーマにされて

いるためか、そこに登場する神々の名については、他の外国の神話に

登場する神々よりは馴染み深いように思いますが、それはあくまで

断片的、表層的で、そこに登場する神が数多いギリシャの神々の

なかで本来どういう位置づけがなされていたのか、どういう由来が

あるのかが不明瞭な気がします。また、擬人化が進んでいること、

つまり、すぐには区別がつかないほど神々と人間は近いということも

気になるところです。よって、今回は、今、流布されているギリシャの

神々と神話がどういうふうに形成されていったのかをフェリックス・

ギラン氏の『ギリシャ神話』を参考にしながら追ってみたいと思います。

 

さて、ギリシャ人と呼ばれる諸種族が、原始的な未開状態を抜け出す

かなり以前から、エーゲ海域には、クレタ島を中心とする地中海文明

なるものが存在したようです。エーゲ文明は、紀元前3千年頃には

すでに芽生えはじめていて、紀元前16世紀頃には最高度に発達し、

ギリシャ本土にまで広がっていたということです。

 

エーゲ文明においても、宗教は重要な地位を占めていて、他の多くの

民族と共通するように、エーゲ宗教の初期形態も、聖石崇拝、柱崇拝、

武器崇拝(特に両刃の斧)、樹木信仰、動物信仰などの物神崇拝で

あったようです。

 

その後、神々を擬人的にとらえる神人同形の概念が生まれて、クレタ神団

(パンテオン)が形成され、神話が創造されたようです。ギリシャの伝説

のなかには、そうした神話が数多く残っていて、例として、クレタ島に

おけるゼウスの誕生、エウロペと牡牛、アポロンが自らを祀るために

デルポイに連れてきて神官としたクレタの人々、そして、ミノタウロス

などがありますが、エーゲの神々は、ギリシャ本土に移ると、原初の

形態を失ってギリシャ風に変ってしまったため、エーゲ神団の全貌に

ついてはほとんどわかっていないのが現状のようです。

 

ただし、次のようなものではなかったかといわれています。

 

<エーゲ人の最高神である神は、他の多くのアジアの信仰と同じく、女性

であった。それは万物の母としての大女神で、この神の中には、神の具え

るべきすべての属性や機能が一体となっていた。とりわけ、彼女は豊穣を

象徴し、その力は人間だけでなく、植物や動物にまで及んでいた。また、

この女神は、天上の神としては、天体の運行を支配し季節の移り変わり

を司った。そして、地上では、豊作をもたらすものとなり、人々に富を

与え、戦闘においては人間を守り、海上では、危険な航海を行うとき、

行く手を示してくれた。この神は猛獣を殺したり馴らしたりした。

つまり、生の女王であり、また、死の女王でもあった。>

 

なお、このエーゲ人の母なる女神は何という名であったかは記録がないが、

クレタではレアと呼ばれて祀られていたということです。ともかく、

この名は、後に、ゼウス信仰において古代クレタの神を呼ぶのに用いられ、

ヘシオドスの『神統記』では、ゼウスはレアの息子ということになって

います。

 

その他には、ディクテュンナとプリトマルティスという二つのクレタ女神

の名が残っているようです。(ギリシャ人はその伝説の中で、同じ神をこの

二つの名で呼んだ。)

 

また、エーゲの人々は、大女神に関連して、一体の男性神を考えだした

ようです。この神は西アジアの信仰をまねたもので、少なくとも最初は

女神の下位にあったようですが、詳しいことはわかっていません。ただ、

このエーゲ海の男性神は、関連する女神と同様、天界の神であり、アステ

ロエイス(「星の」)という添名がついていたようです。この神は、その後、

ゼウスと一体化し、ゼウスの伝説は、より古いクレタの伝説が加わって

いっそう豊かなものになったということです。

 

もう一つ、クレタの神の特異性としては動物と人間の特徴が混じり合って

その本質となっているという点にあるということです。多くのアジアの

宗教に見られるように、非常に古い時代からエーゲ海地方では、牡牛が

力と創造的エネルギーの象徴になっていたようです。牡牛は後に大男性

神の象徴となり、そうした象徴として重要な役割をクレタ伝説の中で

演じ、ついには神格を与えられることになったということです。とにかく

ミノタウロスは、シュメール人のエンキに類似しているのです。

 

このようにクレタの神には、ミノタウロスという牡牛神の姿をとった神

ばかりではなく、ミノスという人間の姿をした神もいたということです

が、我々には、ミノタウロスにせよミノスにせよ、それがギリシャ化した

とき受けた変容を通してしか知ることができないのです。

 

さて、ギリシャ神団(パンテオン)は、早くもホメロスの時代(紀元前9

世紀)に確立したようです。

 

しかし、ホメロスは彼らの起源や過去について何も語っておらず、わずか

にゼウスがクロノスの息子だと述べ、たまたま、オケアノス(大洋)と

その連れあいのテテュスが、神々や生き物の創造者だと言っている程度で

あるということです。

 

ギリシャ人が彼らの神々に系図や歴史がなければならないと思ったのは

もう少しあとのことで、ヘシオドスの詩『神統記』がギリシャにおける

最も古い神話の分類であるとされます。『神統記』は神々の起源を詳しく

述べ、神々の主だった冒険を思い起こし、彼らの関係を確定するとともに、

宇宙の形成をも説明しようとしています。

 

ヘシオドスによるギリシャ人の宇宙創造論は、周知のとおり、カオス

(混沌)から始まりますが、世界の形成と神々の誕生の概要は次の

ようなものです。

 

<初めに混沌(カオス)があった、漠として暗かった。ついで奥深い胸を

もった大地ガイアが現れ、そしてついに、「心を和らげる愛」エロスが

現れた。それ以降、エロスが産み出す力が生物・無生物の生成に常に

主役を務めることになった。>

 

<カオスから暗黒(エレボス)と夜(ニユクス)とが生まれ、ついで、

この二つのものが結びつき、光(アイテル)とヘメレ、すなわち昼が

生まれた。>

 

<ガイアは、まず、星々の冠を戴いた天空、ウラノスを生んだ。ガイアは、

ウラノスを自分と等しく雄大なものに生んだので、ウラノスは彼女を覆い

つくした。ついで、ガイアは、高い山々と波の美しく響き合う不毛の

海ポントスを創り出した。>

 

<宇宙はでき上がってしまったが、まだ住む者がいなかった。そこでガイア

は、息子のウラノスと交わり、最初の種族であるティタン神族を生んだ。

彼らは十二神で、六神が男神、六神が女神であった。男神は、オケアノス、

コイオス、ヒュペリオン、クレイオス、イアペトス、クロノス、女神は、

テイア、レイア、ムネモシュネ、ポイベ、テティス、テミスであった。>

 

<ウラノスとガイアは、次にキュクロプス族、すなわちブロンテス、ステ

ロペス、アルゲスを生んだ。彼らは他の神々に似ていたが、額の中央に

目が一つしかなかった。最後に、彼らは三体の怪物を生んだ。コットス、

ブリアレオス、ギュゲスであった。彼らは肩から百本の手が伸びていて、

頑丈な胴体の上には、それぞれ五十の首が生えていた。それゆえ、彼ら

はヘカトンケイル族(百の手を持つ者)、あるいはケンティマヌス族

(同意)と呼ばれた。>

 

<ウラノスは、子供たちを見て恐ろしくて仕方なかった。それで子供が

生まれると、大地の深みに閉じ込めてしまった。ガイアは初め嘆いたが、

その後、腹を立て夫に恐ろしい復讐を企てた。彼女は胸からきらめく

網を取り出し、鋭い鎌形刀を造り上げ、子供たちに計画を説明した。

彼らはみな、怖気づき尻込みをしたが末子のクロノスだけが彼女を

手伝おうと申し出た。>

 

<夜になると、ウラノスはニユクス(夜)を従えていつものように妻と

過ごしにやってきた。彼が油断して眠っている間に、鎌形刀をとり、

ウラノスの陰部を切り落とし、海に投げ込んだ。傷口から血がしたたり、

大地にしみ込んで、恐るべき復讐の女神たち(エリニユス)や、大いなる

巨人たち、とねりこの妖精メリアスたちを生んだ。波の上に漂う陰部の

断片は崩れて白い泡となり、そこから、若い女神アフロディテが生まれた。>

 

以上が最初の神々であり、彼らの演じた最初のドラマということになり

ますが、ヘシオドスの『神統記』は、ここからさらに神々の誕生と戦い

のドラマが展開してゆき、ゼウスの王位継承にまで至ります。

 

ところで、ドラマを演じる神々のうち、ガイアは、はっきりした特徴を

備えた唯一神ですが、一部の神は、その性格が曖昧ではっきりしていない
ようです。ヘシオドスのいうカオスは、「大口を
開ける」という意味の
ギリシャ語に由来するものであり、広い空間を
示しているだけなのです。
のちになって「注ぐ・流れる」という意味の
語を間違えて語源と考えた
ことから、ようやく、カオスは、空間に
散らばっている諸要素が混乱
したばらばらの状態で集まったものを意味
すると考えられるように
なったということです。ともかく、カオスは、神性を
持たない純粋な
宇宙の本源だということです。

 

同じことは、ヘシオドスのいうエロスについても言えるようです。これは

後世の伝説に出てくるエロスとは何の共通点もないのです。ここでは、

エロスは存在を結合させる引力を表しているにすぎないということです。

 

また、ガイアの息子であり、同時に夫でもあるウラノスは、星のきらめく

空であり、ギリシャでは全く信仰の対象にはならなかったようです。この

空(ウラノス)と大地(ガイア)の概念は、原初的な二体の神と考えられ、

すべてのインド=ヨーロッパ民族の共通のものであるとされます。

 

ティタン族も、最初の神族とされるが、はっきりした個性を持っている

ものはほとんどいないのです。ヘシオドスのいう彼らの名の語源は空想

的なものであったようです。とにかく、ギリシャではティタン族は人間

の祖先として讃えられたとされており、技術や魔術の発明は彼らによる

ものとされたということです。

 

このティタン、そして、キュクロプスたち、へカトンケイルたちは、

包括的にいうと、最初は荒れ狂う自然の力の象徴であった考えられます。

 

なお、フェリックス・ギラン氏によると、ヘシオドスの言うような原始的

で一般に普及していた宇宙創造説に対して、オルペウス教の宇宙創造説と

いったものがあるようです。

 

それは、<根本はクロノス、つまり、「時間」で、そこからカオスが生ま

れ、これは無限を象徴しており、アイテル(光)は有限を象徴していた。

カオスはニユクス(夜)に取りまかれ、「夜」が覆いとなって、その下で、

アイテルの創造活動により、宇宙の物質が徐々に形成されたのであった。

これは、最終的には、「夜」の殻に包まれた卵の姿をとった。この巨大な

卵の内部は、上部は天空、下部は大地であり、その中心部で、最初の存在

パネス(光)が生まれた。「夜」と交わって「天」と「地」を創ったのは

パネスであった。ゼウスを生んだのも彼であった。>などというもので、

神話というよりは形而上学的な仮説といったものに近いということです。

 

それはともかくとして、長い間、口伝という形で伝承されてきたギリシャ

神話のもとになる物語が紀元前9世紀頃になってホメロスやヘシオドスの

叙事詩の形に書きとめられることになったが、それが紀元前5世紀になって、

三大悲劇詩人と呼ばれるアイスキュロス、ソポクレス、エウリピデスに

よって「悲劇」に仕上げられることによって、ギリシャ神話の多くが現在

知られているような形で残されることになったということです。

 

なお、その後、ギリシャ神話は、ローマのラテン文学で取り上げられる

ようになり、紀元前一世紀から次の世紀にかけて活躍した詩人オウ

ウスの神話詩『変身物語』として結実したということです。よって、

欧米では長い間、この『変身物語』で語られる話こそが、標準的な

ギリシャ神話であるように扱われてきたのだそうです。

 

ともすると、その巧みな擬人化に眩惑され、神話としてではなく、人間の

物語として認識してしまう傾向にあるギリシャ神話、そして古代ギリシャ

宗教の本来の精神というものはどういうものかを次回は考えみたいと思い

ます。








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